京都家庭裁判所 昭和46年(家)2368号 審判 1972年7月17日
申立人 山口満隆(仮名)
事件本人 杉田富士子(仮名)
主文
本件申立を却下する。
理由
本件申立の要旨は「申立人は事件本人およびその母李君子(国籍朝鮮)を被告として、京都地方裁判所に工事請負代金請求訴訟を提起している者である。事件本人は日本人父杉田正臣と朝鮮人母李君子との間に生れた子であるが、父杉田正臣の死亡により後見が開始したので、後見人の選任を求める」というのである。
本件記録中の各戸籍謄本、訴状写、李君子の外国人登録原票、家庭裁判所調査官作成の調査報告書ならびに李君子の審問の結果によると、申立要旨記載の事実が認められるほか、李君子は出生以来日本で生活し、昭和四二年六月一九日日本人である申立外杉田正臣と婚姻し、その間に昭和四三年八月八日事件本人が出生したこと、したがつて、事件本人は日本人として、杉田正臣を筆頭者とする日本戸籍に、父杉田正臣、母李君子間の嫡出子として記載されていること、事件本人の父杉田正臣は昭和四五年六月四日死亡し、事件本人は現在母李君子とともに肩書住所地で生活していること等の事実が認められる。
そこで、まず、事件本人の親権者について考えるのに、本件事件本人の親権者は法令二〇条に準拠して、父死亡後は父あらざるものとして母の本国法によつて決すべきものと解され、母李君子の本籍地、その生活関係および意思等を考慮すると、同女の本国法は大韓民国法であると認められる。そうして、韓国民法第九〇九条第一、第二項によると嫡出子については、まず、家にある父が父がないかまたは親権を行使することができないときは、その家にある母が親権を行使するものと定め、同条第三項には、婚姻外の出生子について、上記親権を行使する者がないときは、その生母が親権者となる旨規定されていることが明らかである。
ところで、事件本人は日本人であつて、韓国民法および同戸籍法上の「家」に属しないから、その母李君子は前記第九〇九条第二項にいう「家にある母」に該当するわけではないが、上記条項の趣旨は、ひつきよう、嫡出子につき父がないかまたは親権を行使できないときは、同一戸籍内の母が親権者となることを定めたものと解されるのみならず、同条第三項が前記のとおり、婚姻外の出生子につき家にある父または母がない場合には生母を単独親権者とする旨定めている趣旨をあわせ考えると、本件の場合には前記第九〇九条第二項に準じ、同法上も母である李君子が事件本人の単独親権者であると解するのが相当である。
そうすると、事件本人には現に親権者が存在しているわけであるから、本件後見人選任の申立は、その前提を欠き、相当でないからこれを却下することとして、主文のとおり審判する。
(家事審判官 川端敬治)